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。はにかむ



空の狐


季節はずれな話題で恐縮だが、
桜の苑乳の色満開なりし、茜の夕暮れ頃の話。

友人が唐突に「ねえ、小学校の校歌、歌える?」と尋ねてきた。

わたくしはこの人に溺れているので、
すっかり忘れていた校歌の歌詞とその節を
ヤケに必死に思い出そうとしてしまい、
ポプコーンがはじけるようにぽむぽむと当時の記憶が咲いてしまった。


そう。通っていた小学校は敷地が大変狭かった。

50m走の時なんか、
校庭の対角線上に走ってもギリギリいっぱいで、
ヘタに全力疾走しようものなら
校舎の隅に植わっている大きな桑の木に激突しまう為、
わたくしも含め、児童はみな力半分で走っていた。

マラソンだって、
校庭をぐるぐると回るにしても
なんせ円周が短いのでバターになりそうだった。
グルグルどろー、っと。

実際、何人かバターになってしまったので
ホットケーキの上に乗せられ
オールド・ミスのヒステリー教師に食べられてしまった児童も居た。
わたくしも1度2度喰われた
、、、ような気がするが何せ古い記憶なのでそこは曖昧だ。


走る余裕すら地面にない有様だったので、
プールが校舎の屋上にあった。
吹きっ晒しの屋外プールだ。
日よけも無い。

周りは古い家屋が立ち並び、視界を遮る高層の建物も無い。

容赦なく照る太陽をプールの水面は素直に反射し、
子供らはその光を身体にシマシマに浴びて、
毛並みの悪い真夏の元気な仔狐のようにプールサイドで跳ねていた。

高みから見渡すと、自分や友達の家の屋根が小さく見える。
スイミングキャップにたぷたぷとプールの水を掬い、
遠くに見える屋根に向かってかけた。
虹が見えた。

面白がって子狐らはこぞって水をはねる。
空は碧い。

近所に住む人々は慣れたもので、
夏がくれば校舎の屋上から仔狐が水を撒くのを承知していており、
水難から逃れるため夏の間はプールの脇の道を迂回していた。

いや、中にはわざわざ傘を差してやって来て、
子供らの嬌声に目を細めていた物好きな老人も居た(うちの祖母がそうだ)。

とんだ狐の嫁入りだ。


よほど楽しかったのだろう。
そのせいで何を思い出しても小学校の思い出は、
入道雲と仔狐の世界を晴れ渡る碧色が包み込んでいる。

あの時代は、いつも碧空だったような気がしてならない。

この目の前には、
こんなに燃えるように乳を垂らすように白白と咲く桜が、
掻き集めるように茜を吸っている色だと云うのに、
思い出すのは碧い空の色。
鼻腔に甦る焼けたコンクリートの匂い。
見上げるのは桜より高く高く、その先の空。


そんな話を冬の今想う。
狐の仔は笑う。
by bithoney | 2004-11-12 12:26 | 六角亭日乗
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泣くが嫌さに笑い候。

by bithoney
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