。はにかむ



【落語】志の輔らくご ひとり大劇場 3夜目


2007年09月13日
国立劇場 大劇場

立川志の輔「バールのようなもの」「八五郎出世(せず)」「政談 月の鏡」


客席の周りから聞こえた噂では「チケット完売」だそうで。国立劇場の"大"劇場の客席を3日間埋め尽くしてしまうのだから凄まじい。
チラシやポスターを見ても何かしらのタイアップが発生しなかった様子。金の匂いがするのに食い散らかされない志の輔もすごい。

始まる前から幕はあがったまま。舞台上はガランとして高座も無く、廻り舞台を使った絢爛な登場が期待される。もしかするとドロドロが鳴ってスッポンから登場かしらん、、、と想像も膨らむ。


■バールのようなもの

梅は咲いたかに合わせ、期待通りに回る舞台。いよいよ期待は膨らむ。
が、回ってきた高座はいたってシンプルなもの。屏風かわりに出現したものは、半円筒状の凹面を客席に向かわせる形で配置した白い壁。見上げるほど巨大だが、色味も無ければ飾りもない。おやおや?遊べるところを遊ばないとは志の輔らしからぬと、客席は一瞬きょとんとする。

(しかし、この壁の大きさや丸みや白さが、「政談月の鏡」への仕掛けとなっているのですよ。これは見事に騙された!)

さて、袖から現れた志の輔は軽くお辞儀をしながら、扇子を持った方の手の親指で軽く鼻をはじく。いつもの様子。
挨拶だっていつもの調子で「辞任を決意した翌日と言う忙しい時に起こしいただきありがとうございます。」

「辞めろ辞めろと言ってた人々が辞めたとたんに無責任だって言い出して。モンゴルにでも行けってことですかね」だの「社会保険庁こそ振り込め詐欺ですね」ですでに客席はあったまってる状態に。そこから、「夏が暑いのは冬に焚いたストーブの熱のせいだ」やら「エイヒレはどこまでがヒレ?」「ライオンは何故頭の大きい?」「キリンの首は何故長い?」だのバールのようなもの
の"屁理屈ワールド"への道を開いてゆく。そらもう、"オーラロードが開かれた"みたいな勢いでさぁ。おそらく「しのすけ力(力は"りょく"では無く富野監督節で"ちから"と読もう)」が働いているんだよ。アタックアッタクアッタク俺は立川流。

不思議なもので、志の輔世界と清水義範世界はそれぞれがきわめて個性的で、"平行世界"と云う言葉が頭に浮かぶ。それぞれの宇宙がとても広がったり収縮していたりする"個々"ものなのに、繋がりを見せている。

>>これからは私の本の中から、落語にしたいと思うものがあったら、
>>どんどん勝手にやっていいですよ。志の輔さんなら許可します

と志の輔に言った清水義範の目の確かさと鋭さがつくづく、恐ろしいワケで。

他、つれづれ
「なんで、てめぇの家に帰るのにこんなにドキドキしないといけないんだ」
「ハワイのような、と言ったらそこは熱海だ」
「妾だけは"のようなもの"を付けると意味が強まるんだよ!」


■鉄九郎

舞台廻って、太鼓に笛に三味線3挺。
口が開いてしまうほど聞きほれてしまう。


■八五郎出世(せず)

また舞台廻って高座が出現。
「えー、使えるものは何でも使います。」

マクラは志の輔が下町で聞いた昔話。

ある坊やが母親から「お饅頭を15個」のお使いを頼まれた。顔なじみの美味しい和菓子屋に行くと「坊や、運がいいね。ちょうど15個残ってたよ。これで売り切れだ。」と店主に言われた。その言葉を聞くと、坊やは少し考え「やっぱり13個にします」と2個残し、帰宅する。お使いを頼んだ母親は「何故13個なの?」と問うが、「売り切れた後に買いに来る人がいるかもしれない。こんな美味しいお饅頭が食べられないのは可哀想」と坊やが答えたのを受け「偉いねぇ」と褒める。
昔は、こういう考え方をする人ばかりだったと下町の人は言う。

「美しい国日本」と云う言葉に恥ずかしさを感じるのは、自分を美しくみせたいだけの浅ましさが匂うからだろうなぁ、、、。
子供に「偉いねぇ」と言える大人になりたいもんですよ。今、目の前に居ない人に気遣えなくなった世間にウンザリですよ、実際。後で、八五郎が「殿様に何か(土産を)持ってった方がいいよな」と大家さんに相談する場面があるんだが、こういう気遣いも最近廃れつつあるのかねぇ。

さておき、本題。マクラからの流れでは「足ることを知る」がキーワードらしい。
後にケレンを入れた政談月の鏡が控えているだけに、いつもよりあっさり目の八五郎出世(せず)。この"あっさり目"を物足らないと思われては困る。塩は控えていても出汁は奢ってますよ。ええ。カビの浮いたいい鰹節の旨みと人情は似ている。

殿様の屋敷で酔いが廻るほどに、照れが抜けて人柄の温かさがにじみ出る八五郎もいいが、この志の輔世界は脇役がまたいい。
3年と3月も家賃を踏み倒され続けたり、川に蹴り落とされても尚、店子の面倒を甲斐甲斐しく見る大家さん。
初孫が生まれたと喜ぶ八五郎の母の周りを囲むようにして「初孫だー。初孫だー。」と囃し立て長屋の住人。どぶ板にはまって怪我した八五郎の母親の治療費を少しずつ集めて出してくれたのもこの人々。

そして、名脇役と云えばこの人。三太夫。
八五郎の行儀作法にいちいち口を出すが、手荷物の茄子の古漬け(幾ら幾重にして包んだとて匂いは漏れるだろう)には何も咎める様子が無いところがいい。"引き算の演出"と申しましょうか。「これはもしかすると、お鶴の方様への土産では無いか、、、」と察して、あえて口を出さない優しさを感じるんです。

それにしても、お鶴に気づいた八五郎が杯を置く仕草は、一瞬酒が零れるんじゃないか、、、と錯覚するほどだったなぁ。たふんたふんと表面張力で盛り上がった様子まで見えた。(お膳の上に置かず床に置いたのは、日頃膳など使わず呑んでる八五郎のクセが出たんだろうか。)。

サゲ赤(朱?)井御門守の「これが世に言う、鶴の一声じゃ」

他、つれづれ
「二のとり、三のとり、と産め。三の酉は火事が多いから気をつけろ。」
「(母親に初孫を)抱っこさせてくれ、それさえして貰えればいい。後は何もいらない。」
「うちのおふくろは長屋の連中に生かされてるの」


■政談月の鏡

「9月7日と言えば、、、、」とためる志の輔。「24シーズン6のレンタル開始日です!」に会場は「ズッ!(聖日出夫の「なぜか笑介」のアレな)」

美しいほど決まる「ズッ!」。体験できるなんて、生きてて良かったっすよ高山課長。

この始まり方からして、もう志の輔の遊び心を感じてならない。じわじわと期待が膨らむ客席。

唐突に話題に上ったこの「24」。なんでも、4年ほど前に柳沢慎吾に薦められたそうな。気は乗らないまま1巻を見たら即ハマってしまい、落語会への出演もこなしつつ。3日間8時間ずつ見続けてしまったらしい。

24のサスペンスに絡んで、落語にはサスペンスが欠落してると言う話。
そこから「政談月の鏡」の補足に入ってゆく。テーマは落語とサスペンス。

「(月の鏡は)この先も上演されないと思います。何故ならば、面白くないんです。」
「もしかすると円朝は(落語と相容れない要素だが)サスペンスを作って見たかったんじゃないだろうか。」

  ※円朝を庇うわけじゃないけれど、読んで見ると結構面白いんですよ。
   喜助が梅を相手に酒呑んでる場面なんか、意味も無く長い割りに不思議と飽きない。
   (ありがたいことに、青空文庫でこの月の鏡が読めます。)

蛇足ですが、政談月の鏡とは、世継ぎ毒殺を企む家臣が起こしたお家騒動と、市井の人々までもがその悪意に巻き込まれる様子を描いたまさに"サスペンス"。
登場人物の相関も重なる上に場面もその転換も多い、、、と云った、なかなか話す人や、それを聞く人の脳みそを疲れさせる話なんですね。映像を思い浮かべると、落語ながらカメラの切り替えが結構激しい。

話の筋は、全集やら青空文庫でチェックしていただくとして(いや、志の輔版はかなり贅肉を落としていますが)、ここで語らねば成らないのは「志の輔が仕掛けた仕掛け」でしょう。
話の途中で舞台が暗転。どこかで聞いたような、効果音が鳴り響いたかと思うと、志の輔の背後の壁に時刻のデジタル表示が浮かぶ。そして、続けて同時刻を過ごす個々の登場人物の様子が4分割でドーンと映し出される。
(たとえば、左上に格子ごしの遊女。右上は満月をバックに遠吠えする犬。右下は頭巾姿の武家2名。左下は御用提灯が並ぶ画像、、、と云った按配。「著作権が怖いので、古い時代劇から
拾ってきました」と志の輔)

おー「24」だ。見たこと無いけど。

なるほど、だから、あの素っ気無い壁だったのか。
凹面を客席に向けた半円筒の形状の理由も分かった。これなら、大劇場でも隅々のお客さんに死角が出来ない。なるほどなぁ。こういうところも計算してるところが流石だ。

この「24」風演出が話の中に3回ほど出てくる。これがただのケレンでは無く、状況確認になっているのにガッテンしていただけましたでしょうか。

しかし、これだけのサスペンスに仕立てて置きながら、浮気の証拠と見られる簪を奥方に見つかってしまったお奉行さまのさえない様子がサゲだと云うのがまた素晴らしい。サスペンスで押した後に、気を変えるところがプロだなぁ。

最後の最後にまた時刻のデジタル表示。
「00:00:00」に合わさったときに「See You Next Time」と出て、「24」の曲が流れる中、志の輔や鉄九郎などの名を連ねたスタッフロールが流れる。凝ってるぞう!

そして、最後の最後で志の輔のまとめの言葉

「これは、ラクゴのようなもの、、、です」

ラクゴに関しては、のようなものを付けると意味が強まるんだ(byご隠居)

ブラボーブラボー。おそらく否定的な人も居ると思うが、わたくしは実力ある人のケレンは大好きですよ。ええ。

他、つれづれ
「私にとって大統領はパーマーなんです。たまにブッシュを見ると、なんでブッシュ?と思う。」

「これは落語じゃないんですよ。Liveなんです。」
[PR]
by bithoney | 2007-09-14 19:09 | :芝居浄瑠璃芋蛸南瓜
<< 【落語】第72回 朝日名人会 【落語】第3回 東西笑いの喬演... >>

泣くが嫌さに笑い候。
検索
このBlogについて
中島蜜蜂と申します。はにかみ屋でございます。

このブログは以下5つのカテゴリで運営しております。

+六角亭日乗
 日記っつーより雑文
+自己紹介
 自己紹介です
+芝居浄瑠璃芋蛸南瓜
 主に落語と歌舞伎の観劇雑文。マニアじゃない。
+リンク集
 よく行くとこ。
+++昔書いたもの
 別のサイトで書いてたヤツ

更新のメインは「六角亭日乗」と「芝居浄瑠璃芋蛸南瓜」。伸びきった金玉のようなペースで。

以前の記事
その他のジャンル
記事ランキング