藤の花の盛りに亀戸天神の賑わいはたいしたもので、賽銭箱もみっちり身が詰まっていたようだ。箱の裏側の下に小さい取り出し口があり、そこから賽銭を回収するらしいのだが、賑わう銭の圧で開けるのに難儀していた。
こうなると目前の参拝客にはお構いなしで、回収する者たちは周りに飛び散った銭を尻に敷き賽銭箱を蹴り始めた。二人掛かりで遠慮ない音を立てている。
その様子の一方で、賽参拝客は相変わらず銭を投げ入れ続ける。賽銭箱の口が銭を吸い込んでゆく。
暫く見物し、まだ賽銭箱を蹴り続けている男の尻に50円を放った。回収の手間賃と客のおめでたさ、合わせて50円の見料だ。