交通博物館の前を通った頃には既に閉館の刻限で、門は家族連れを次々と吐き出していた。
その中に泣いている子供がいた。
帰りたくない電車電車電車電車、と火がついたように叫んでいる。
電車電車電車電車。
若い母親はカンに障り父親に子供を押し付け、その若い父親はただおろおろしているばかりだ。
電車電車電車電車。
騒ぎの横、淡々と閉館の準備を進める中年の女性職員がいた。
彼女は、電車電車電車電車を聞きながら薄く笑っていた。
親子に対する嘲笑でも無く。
愛着を持ってもらえた誇りによる満足気な笑いでも無く。
考え過ぎれば「こんなに愛されている博物館なのに今月で閉館しちゃうのよ」と云う苦笑いだと取れるのかもしれないが、彼女の笑いはそうには見えない。
何かに照れているような、自意識とわれわれとの境に漂う妙な笑いに見える。照れの笑い。
電車電車電車電車。